Ⅲ.墓とかまど

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 寝台へ身を横たえるレギオンの(あるじ)は、薄っすらと笑みを浮かべて獣を見上げていた。 『なんだよ、わざわざ突いて邪魔して』 『コロセって…言ったでしょう』  彼は寝たフリをした(あるじ)に、イオを罵りかけた所をこっそりと止められたのであった。 『……聞いてたのか』  少し呼吸が早い様子の(あるじ)を、獣が抱き締める。衣の下に黄金色の刻印が刻まれた背中に触れると、熱を感じた。 『初めて話しが…出来たのに……死なせたくない』 『二人だけだ、話せるのは。もう一人はわからねえ』 『ッ……は…あ、ぐ……』  主の塞がったはずの胸の傷口から、血が滲み出している。眉を寄せて、額に汗を浮かべて痛みに耐える痩躯を抱きしめた。 『駄目……血に…触ったら』 『俺はアンタの呪い、百年前にくらってる。もうこれ以上悪くなんねえ。大丈夫だ』 『………レギ…オン』  (あるじ)の丸い額を伝い落ちる汗を舐め取って口付けを落とし、頭を胸の中に掻き抱く。レギオンの体に宿る命が(あるじ)の血に触れて蝕まれるのを厭わずに、離れない。 『――君が今日も…(おれ)の…傍に居てくれて…うれしい』 『明日も居る。アンタが、何処にも行けないなら、ここに。どこか、別のところ、行くンなら、そこに』 『いいえ、アナタも……彼らと……一緒に行くべき、です』 『嫌だ』  衝動的にレギオンは(あるじ)の後頭部を支えながら、唇に噛みつくようにキスをした。 「はっ……」  呼吸を奪い、肌を削るように歯を立てて吸い立てる。 『俺を、追い出そうと、するな』 『違い…ますッ…レギオン――アナタは…ン』  給餌と違う、そもそも食事のないタイミングでの口付けに(あるじ)は混乱しているようだった。  喋ろうとする口を塞ぎ、開く唇の間に舌を捩じ込んで言葉を続け捺せまいとした。  レギオンは二人きりの長い時間の中で積み上げてきたものが変わろうとしていると感じて、もう一度薄い背中を折れそうなぐらいに抱き締める。レギオンの腕に籠もる力に、(あるじ)も折れるしかなかった。 『……ごめんなさい。ええ……ずっとここに居てください』 『分かればいい。あんたは…俺の(あるじ)だ』  抱き合い血に触れただけ、レギオンは成長していた。この短時間でおよそ五歳ほど、さらに体付きは引き締まり、顔立ちも微妙に変化する。それは裏を返せば彼が老いたという事でもあった。
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