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その頃イオは裏手の墓場の一角の土を操り穴を作っていた。獣に掘り返されないような深さの穴を作るのはなかなか根気のいる魔法で、かれこれ三十分は両手を地面についたまま動かずに居る。
「流石だな、過不足無く正確で俺には出来ない仕事だ、イオ」
メロスが飾り気のない言葉で褒める。
「君、瞬発力型だしねぇ」
メロスに穴を掘らせたら、おそらく盛大に土を飛び散らせて彼を中心にドでかい穴ができてしまう。
八体の躯を収める棺も無い。直にここに埋めるしか無いし他にここに眠る先輩方が居るとしたら、彼らを傷付けたくもなかった。
「ふぅ……こんなもんかな。へへ、褒めても何も出ないよぉ」
八人の仲間の遺体を穴に横たえ、上から土をかける。しっかりと踏み固めて、最後に新しい標を突き立てた。
他の墓も概ね似たような状況で、既に突き立てられた木の標が白っぽく風化して朽ちそうになっていて、地面には草が茂っているものもある。
「わからないことだらけだ、って顔だぞイオ」
「代わりに考えてくれるのかい?」
軽口を叩くイオに、メロスはその場にあぐらを掻いてすわりこんだ。
「まず足が痛い。普段机に向かっている奴が、昨日も今日も歩き回りすぎたよぉ」
イオも話しながら隣に腰を下ろす。木々の隙間から白い月が見えた。木に登れば詰所の旗も、東側の国土を遮る連峰の西の斜面も見えることだろう。
「腹はいっぱいだな。レギオンは料理の腕がいい」
「そのアルジさん……彼はどこの人がわからないけどきれいな人だ。見たこと無いぐらい」
「あれは女神だ。俺が何度も夢で会ったあの人だ」
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