Ⅲ.墓とかまど

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「ねえー、それ本気で信じてるの?」  子供の頃からメロスは決まってある夢を見ると興奮気味にイオともう一人の幼馴染マリーに語ることが有った。白銀の髪をした女神と会話をして、彼女に幸せを祈られる。メロスが成長しても姿の変わらない夢の中だけの女神。 「ん〜十年越しの予知夢なのかな。まぁいいけどさぁ」  ここまでは他愛のない、判っている事の話である。  ここからは、わからないこと。 「こんな瘴気の空白地帯が有って、この場所を知っている騎士団員が居るのに地図に載ってないのは何故かな」 「ああ、こんな場所があるならば詰所を作ってしまえば森の攻略には役に立つだろうに、それをしない」  そう、とイオが頷いて返す。 「住民がいるからそれが出来ないとして、説明と補償をして立ち退いてもらうぐらいのことはよくある話だよね」 国教会に限った話ではない。住居区画の再編、貧民窟の浄化、そう言った理由で金銭と引き換えに立ち退かされる人々は実在する。 「ふむ。何れにせよ先ずはあいつが目を覚ましたら問いただせばいい」  メロスが石を一つ掴み、森の方へと勢いよく投げつけながらつぶやく。 「彼らに何をするつもりだったのか。同じ教会に仕える身として、あんな事を繰り返させる訳にはいかない」 「…………メロス」  メロスが投げた石は木の幹にあたって跳ね返り、転がった。  イオはなにか言いにくそうに俯いた後、額に手を当てて目元を隠しながら口を開いた。 「さっきも言ったけど……ここで見たことを報告するのは止めよう。僕たちはレギオンともアルジとも会ってない、彼等はいない。居ないから何もされてない。そうしよう」
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