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イオの言葉がよっぽど予想外だったのか、メロスは顔をしかめながら振り向いた。
「……なんだと? 教会の理念どころか、人として有るまじきことをしたことを黙っていろというのか」
深呼吸をして覚悟を決める。メロスと向き合うのはあえての普段の締まらない笑みだ。
「僕たち絶対ヤバいよ? だって今日何人死んだ? 騎士が八人だよ? もしかしたら僕も君も、予定では死ぬ数に入って居たのかもしれない」
自分達が今しがた作ったばかりの墓を見る。きっと他の墓はレギオンとアルジが今まで作ったのだろう。
もしかしたら自分達もあの中に混ざっていてもおかしくなかったのではないか。
それがイオの何よりも大きな疑念であった。
「そんな状況で全部バカ正直に報告を上げるつもりかい? オルメロス=アンディーノ」
イオが手を伸ばし、メロスの袖を掴む。
「この件は、深入りしちゃ駄目だ。メロス」
「……だが…」
「君、もうすぐマリーと結婚だろう?」
マリーの名前を出され、メロスは目を瞬かせた。
イオは幼馴染同士の結婚が決まっている友人に首を傾げて問いかける。メロスの結婚相手のことはイオも幼い頃から知っている仲の良い令嬢だった。
「あの彼が君の女神とやらに似ているから、そんなに気になるんだろう? 許せないんだろう? でも君にはもっと大切にするべき人が居る。なぁ、マリーが僕たちを待ってる。……だから、この件の報告は全部僕に任せて欲しい」
青葉色の瞳はいつになく真剣な眼差しで、友人の赤い瞳を射抜く。
「……わかった。イオ……」
「向こうで先に寝ててくれ。僕は報告の内容をもう少し考えてから寝るよ、おやすみ」
メロスは苦い表情とともに立ち上がり、友人を案じる視線を向けた後裏の墓場を後にした。
「……はぁ…」
一人残ったイオの後姿が、降り注ぐ月明かりに何時までも照らされていた。
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