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「ぅ………う………」
男が呻き始めたのを聞いて、その様子を注視する。
「……つ…くしき…くもつ……」
「つくし? くもつ?」
「あ゙ぁ……生贄よ――…」
およそ数日前に交わした時とは全く違う様子の彼の声と意味の分からない単語の羅列に眉を顰める。
「何の話かなぁ……とりあえずさぁ、一緒に帰りますよー。帰るまでが遠征ですよぉ」
呻く男は体を揺らして拘束から逃れようとし始める。これは危険な兆候だ。彼自身の体も傷付けてしまうだろうし、レギオン達の方へ向かえば戦いが始まってしまうかもしれない。
ため息を付いてイオは再び男の首を締め、呼吸と血流を遮断して意識を失わせる。
「レギオンの言っていたことが本当だとしたら、詰所に戻った後もどうしたもんか…」
「イオ」
後ろから声をかけられてのんびりと振り返れば装備を整えたメロスが立っていた。
「昨日と変わらないね」
「そうか……」
「ところでさぁ」
今から君が嫌がりそうなことを頼みたいんだけど、とイオが両手を合わせてメロスの顔を覗き込む。
当然メロスは怪訝な顔をして友人の顔を見下ろし。
「嫌だといってもお前は聞かないからな……聞くだけ聞こう」
心外だなぁ、と笑う友人からどんな面倒事をふっかけられるのかとメロスが身構えると。
「ちょっと僕の事本気で十発ぐらい殴ってよ♡」
想定の十倍は受け入れ難い頼み事だった。
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