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メロスが腹を殴る、足を蹴る。どれも本気で、と言われたがつい手加減してしまうのはやむを得まい。蹌踉めいて倒れてしまったイオを見て怯み手を止める。すると、笑いながらあと最低三発などと抜かすイオに気が触れたかと眉を顰めずにいられない。
「……終わったら説明しろよ」
顔も一発入れといて、と言われて横っツラを殴った。
「はー……痛い…さすがプロだぁ」
大の字に手足を投げ出して何故か満足げな幼馴染を見て、騎士は深く長いため息をついた。
「ゴメンって。レギくんだと加減が分からなさそうだしさあ」
「加減?」
腫れた頬を撫でながら身を起こすイオへ首を傾げながら、殴った後の痛みが残る拳をひらく。
「僕が他の班員に殴る蹴るされて、正当防衛で反撃したことにするからさぁ。痛ってて……」
「馬鹿野郎……」
イオへ肩を貸してレギオンの前へ戻る。鍋の中には具入りの粥が出来上がっていて、椀にまた山盛りによそわれてすぐに食べられるようになっていた。イオはいらないと断ったのだが、レギオンの無言の圧力に折れた。
腹の痛みに呻きながらも粥を残さず食べた一つ年上の幼馴染の頭をメロスが撫でると、彼は眼鏡の下の青葉色を丸くした後にへらへらと締まらない笑顔を浮かべた。
朝食を終えても白銀の髪の青年は建物から出てこなかった。
「騒がせたな、ありがとう」
「……おい。イオ、メロス。お前らだけなら――…また来ても良い」
別れ際にそう言われて、彼らは少しばかり救いを感じながら、気を失ったもう一人を担いでその場をはなれていった。
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