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レギオンは眉間に皺を寄せながら言葉を探して、拾い上げて、並べるように紡ぐ。お互いに通じる言葉は限られている。そのやり取りの中で、幾つかどうやっても通じなかった言葉がある。
「愛してる」
『アイシテル? …すごく、すごく好き?』
『好きじゃ、足りない』
――愛の概念の欠如。独占欲の欠如。
『交尾、あんたと、したい』
『……? 己と?』
――性欲の欠如。
『何をするの? 己に…でき、ますか?』
『服を脱いで、抱き合って……身体に触れて』
『寒い時に、するやつ?』
――羞恥心の欠如。
『アンタに触って……気持ちよく――』
『気持ちいい?』
――性的快楽の欠如。
およそ大人を相手にしているとは思えない言葉の隔たり。だが主は真剣にレギオンを想っている。いつも案じている。
主の手が、獣の頬を撫でた。
紫水晶の瞳の中に映るレギオンの顔は、何時にも増して険しい。
皺を寄せる眉間を撫でて、眉尾を下げて己の無知が彼を苦しめていることを察して主は言葉を探す。
『困らせてる…ごめんなさい』
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