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胸に滲む血を掌で塗り伸ばしながら、普段よりも熱い唇に唇を重ねた。給餌の時とは違う、口の中を探る動きで粘膜を舐め回す。――娼館の連中から手解きされた、とびきりに淫靡な口吻。唾液を注ぎ込んで、飲めと言うと素直に主は飲み込んだ。
『俺は、キモチイイ』
正直、主に快楽を味わう余裕があるのか、わからない。獣に思いついた出来ることは、自分が知る快楽の形を伝えることだった。
『そ…う…。よかった…』
良いもんか。ちっともよく無い。そうじゃねえんだ。俺だけが良いんじゃ駄目なんだ。そんな自分勝手な思考が巡るのに、股座が張り詰める様に重ねて嫌悪と怒りと、抑制できない主を求める寂しさで頭が割れそうに痛い。
『アンタもキモチイイって顔』
『そ、う…ですか?』
嘘をついた。きっと怠くて重たいだろう身体。口付けの間に嘔吐しなかったのが奇跡のようだ。その手に指を絡めて、熱い体温を少しでも吸い取ろうとする。
『そう…か……ふ、ふ……キスは…気持ちいい』
『俺以外、駄目』
主の額に浮く汗を再び舐め取り言い聞かせる。
『わかりました……約束?』
どちらが主だかわからないような遣り取りだが、教えられたことはいつも素直に受入れてしまう。それが他人を傷つけるようなことでない限りは。それは自分が信頼されているという証拠なのだろうか。いや、主は誰にでもそうなのではないか。
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