Ⅳ.五人の生贄(R18,R18G)

8/19
前へ
/126ページ
次へ
 胸に滲む血を掌で塗り伸ばしながら、普段よりも熱い唇に唇を重ねた。給餌の時とは違う、口の中を探る動きで粘膜を舐め回す。――娼館の連中から手解きされた、とびきりに淫靡な口吻。唾液を注ぎ込んで、飲めと言うと素直に主は飲み込んだ。 『俺は、キモチイイ』  正直、主に快楽を味わう余裕があるのか、わからない。(けだもの)に思いついた出来ることは、自分が知る快楽の形を伝えることだった。 『そ…う…。よかった…』  良いもんか。ちっともよく無い。そうじゃねえんだ。俺だけが良いんじゃ駄目なんだ。そんな自分勝手な思考が巡るのに、股座が張り詰める様に重ねて嫌悪と怒りと、抑制できない主を求める寂しさで頭が割れそうに痛い。 『アンタもキモチイイって顔』 『そ、う…ですか?』  嘘をついた。きっと怠くて重たいだろう身体。口付けの間に嘔吐しなかったのが奇跡のようだ。その手に指を絡めて、熱い体温を少しでも吸い取ろうとする。 『そう…か……ふ、ふ……キスは…気持ちいい』 『俺以外、駄目』  主の額に浮く汗を再び舐め取り言い聞かせる。 『わかりました……約束?』  どちらが主だかわからないような遣り取りだが、教えられたことはいつも素直に受入れてしまう。それが他人を傷つけるようなことでない限りは。それは自分が信頼されているという証拠なのだろうか。いや、主は誰にでもそうなのではないか。
/126ページ

最初のコメントを投稿しよう!

44人が本棚に入れています
本棚に追加