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貧民街の誰も読み書きなんて出来ない。
「腹減ったな」
「馬鹿。そういうともっと腹が減る」
川を誰かのぶよぶよに膨らんだ死体が流れていくのは日常茶飯事。女は路上で客を取る売女、男はスリでとっ捕まるか、鉱山の暗い穴の中で死ぬまで鉱石を採掘するかが殆どだった。
「じゃあ…おなか、いっぱいって…いえば、いい?」
「言っても変わんねえんだから他のこと考えろ」
「うん」
五人は貧民街の孤児仲間で、レギオンは一番年上だった。もっともその頃はレギオンとは呼ばれていなかったし、なんと呼ばれていたかももう忘れた。
それが夜の間に人攫いに一纏めに縛り上げられて、この国で最も大きな山々のどこかの砦に放り込まれた。
「何だよここ! 鉱山に行くんじゃなかったのかよオイ!」
砦には大人も子供もいた。女も居たが、別の部屋に分けられていた。顔を見て、どいつもこいつも同類だと分かる程度にはろくな奴が居なかった。
「邪魔だ退けクソガキ」
「ッ!」
大人の憂さ晴らしに使われるのは皆初めてではなかったが、閉鎖空間で逃げ場がないのは最悪だった。
「ちったあ役に立てよなぁ……うぅ、くっ」
怪我をしても砦の兵士たちの中に手当などする奴はいなかった。それどころか大人たちが怒鳴ろうと、これから自分たちが何をさせられるのかを答える奴もいなかった。
男も女もだんだん数が減っていった。呼ばれて連れ出されて、帰ってこない。誰も口にしなかったが、皆薄々気付いていた。
「ここで死ぬんだな、俺」
呼ばれる前に死ぬ奴も居た。そんな奴の持ち物に何か金になるものが無いか漁っていたら大人に腹を蹴り飛ばされた。
その大人たちも子供より先に消えた。
「――お前ら五人、出ろ」
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