Ⅴ.銀の糸

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 レギオンは一つ息をつきながら手の甲に指の筋がはっきりと浮かび上がり、カサついた手で(あるじ)の目元を覆い隠した。 『初めてじゃねえ。ずっとずっと、同じことしてる』  死なない肉体と、死んでも生まれ変わる肉体ではまた仮初めの終焉への価値観も違うのだろう。何度も死を繰り返す呪い。獣が主の血肉から浴びた呪いはそういうものだった。――それに、四人分のある土産も持って。 『街、行った時の方が、ここ、居ない時間、長い』 は、と吐息で笑いながら主の背をかるく撫でて宥める。  死による肉体の再生も必要だったが、そろそろ街へ買い出しに出て必要なものを補充しなければならない時期でもあった。 『それは……――そう、だけど』 『アンタが作ったレース、毛皮、売って。また塩とか買ってこねえと』  (あるじ)は飲まず食わずでも死なないが、レギオンは飢え死にする。森をでて山を迂回し、身元もはっきりしない自分たちから物を買い取ってくれるような街へ行けばレギオンはひと月は戻らない。 『アンタ、神様。俺の』  声を殺して流した(あるじ)の熱い涙で濡れた手をそっと退かして、獣は再び重ねるだけの口づけを交わした。 『笑ってくれねえか』  白銀の(あるじ)は、糖蜜色の指先でレギオンの潤いの無くなってしまった唇を撫でる。  その日(レギオン)は飽きることなく、己の(あるじ)の顔を空が茜色に染まるまで見つめ続けた。
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