46人が本棚に入れています
本棚に追加
イオとメロス、そして気を失った同期の男の三人が無事に詰所にたどり着いたのは、泉の傍を出発した朝からたっぷり時間をかけて、月も高く昇り門が閉ざされた後の時刻だった。
自作自演とはいえ暴行のダメージを負ったイオは森の中を魔法を使いながら歩くだけで消耗した。隣に並ぶメロスは気を失った人間を抱えながら森を進んだ。二人共普段以上の緊張と疲労に、たどり着いた途端気を失うように倒れてしまうほどだった。
「いやー……強い魔物や魔族に遭わなくてよかったねえ…メロス」
「まったくだろ…お前……無謀にもほどが有る」
打撲や足の裏の怪我――もっともこれは歩き慣れていないが故の怪我が殆どだが――を理由に雑魚寝ではなく寝台で休む時間を得たイオが携帯のインク壺にペン先を浸しながらへらりと笑う。
「彼は、意識戻ったのかな」
「らしい。何故持ち場を離れたか、これから問いただすそうだ」
メロスは干し葡萄を口に放り込み、イオの口元にも差し出した。
「さんきゅ」
メロスの指ごと干し葡萄を食べて報告書を書き上げるイオ。まだインクの乾ききっていない茶色い紙をつまみひらひらと扇いだ。
「これメロスの分の報告書ね。ほら、君正騎士だしさ、僕が報告書あげちゃったけど」
ぱっとイオの手から紙を受け取り、メロスがそれに目を落とす。
「何があったかこの内容通りに報告してるから。ほら、君が僕の事助けたヒーローにしておいたからさあ」
読み進めるほどに彼の表情は険しくなっていった。
「……どういうことだ」
最初のコメントを投稿しよう!