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「……本当に俺は必要だったのか?」
「まあまあそう言うなよ真咲ィ、俺達仲間だろ」
ニヤニヤとガラの悪そうな感じを出すために普段見たこともないガニ股で近づいてきて、がっしりと肩を組まれる。
これが路地裏で、大して仲良くもないヤツなら一目散に逃げだしている所。
毎日顔を合わせている相手、それも人通りの多い見通しも良い明るい道では冷ややかな視線とツッコミを送るだけだった。
「それ、仲間じゃない奴が脅す時とかにマンガで言うやつだろ八尋。……お前は仲間だけど」
「そういうフォローは入れるところが良いやつだなお前」
「それはどうも。じゃあ、今すぐ帰っていいか?」
「良いワケが無いでしょ真咲ィ、何のために連れてきたと思ってるんだよぉ」
「なんでお前もそのノリ何だよ善弥……あいにく財布なら家だけど」
「なんと、僕が持ってきています」
「は?」
「ごめん、嘘。流石に嘘」
思った以上に強くなった語気に、善弥が俺の手を両手で包み込むようにしながら謝ってきた。
嘘なのは分かってたけど、何にしてもべたべた触らないで欲しい。
「ならいいけど。で?」
「で? じゃないぜ真咲ィ」
「そうだよ、気持よく晴れた春の日だよぉ~?」
煽るような言動に苛立ちを隠さずに握ったままだった手を力強く握り返してやる。
「痛った! 何すんだよ!」
「いつまでも手握ってるからだろ」
「何小学生みたいなことしてんだお前ら」
「真咲が僕の手をぎゅーってしたから!」
「煽るような事言うからだろ」
「別に天気が良いなーって言ってるだけだろ?」
天気が良いのは別に嫌いじゃない。
普通に誘ってくれれば出かけるのも別にやぶさかではない。
ただし。
「……花粉症の俺を今連れ出して何がしたいんだ、っくしゅ」
この季節で無ければ、の話だ。
「お花見?」
「あと色々と買い出しと予定?」
「そういうのは計画性を持って申告をしてくれれば薬を……って予定?」
気が付くと二人は立ち止まっていて、そこには普段近づかないおしゃれな店があった。
「うん! 今日は美容院!」
「は……?」
「放っておくとどんどん髪の毛伸びてくんだもん」
「洗うのも乾かすのもめんどくさいって言ってただろ?」
「確かに言ったけど……」
「という事で随分と髪が伸びた真咲くんのイメチェン企画です」
「は!?」
「ビフォーはその辺の動画から静止画ぶっこぬくから安心しろ」
「いや、違っ、俺気にしているのはそこじゃ……!」
「こうでもしないと美容院行かないもんねぇ」
いつの間にか両側からがっしりと腕を組まれていた。
俺より小さな善弥はともかくとして、体力があって身長も変わらない八尋は間違いなく振り切れない。
逃げられないのを察して、無駄な抵抗を試みる為に身体を揺らす。
「床屋で良いんだ俺は……!」
「何言ってんだよ、外出るのもちょっと億劫とか言ってただろ」
「別にいいだろ美容院じゃなくても……!」
「大丈夫だよ、美容師さんコワクナイヨー」
「知ってるよ、ただ俺が苦手なんだよあの会話のキャッチボールが! あとで床屋の予約取るからどっちか行けば」
「僕は昨日行ってきたところです」
「オレは一昨日行ってきたところです」
「急に髪型が綺麗になったから何かやるのかと思ってたけどまさか」
「そう、人の良い真咲君が予約を取ったら逃げられないという、そういう寸法さ!」
どこぞの名探偵が言いそうな台詞と共にいい笑顔で言われ、苛立ちが増して大通りで店の前なので実際の声量は押さえながら抗議を込めて叫んだ。
「騙したなお前ら……!!」
「出かけるとは言った」
「そうだぞ。荷物が多いって言ったら嫌々出てきてくれただろ」
「今の所手ぶらで、アッ、やだ……ッ!」
「変な声出すなよ店先で」
「はい、美容院行くよ真咲ィ~」
マンガでずるずる引きずられて行くのを見たことはあるが、自分がそうなるとは思っていなかった。
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