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 彼女は楽しかったと言って帰って行った。息子は「ちょっと送って来る」と言って出て行った。 「いい子だったわね」 「ああ。お似合いだったよ」  カミさんは安心したのか鼻歌など歌いながら後片付けを始めた。  俺は自分の部屋に戻っていった。かつて馬券を買っていた頃の思い出の箱を取り出した。主に負けた馬券を取ってある。あの頃ネットで馬券を買うこともあって、そのページの名前はニックネームでよかった。その名前が〈オオアナイチバン ケイバダイスキー〉だったのだ。分かりやすい名前のおかげで大穴好きの仲間とも交流出来た。  だから俺だと名乗りでることも出来た。だがそれは心に閉まっておくことにしよう。騙されたわけじゃなかっただけでもよかった。何より騙されたと思い込んだことによって、カミさんと出会えたし今の家族があるのだ。それに息子に迷惑をかけても困る。それじゃなくてもいい関係というわけではないのに。  ふいに部屋がノックされた。返事をすると扉が開いた。 「──俺、高校でたら職人になるから」  カミさんだと思ったら息子だった。 「あ、ああ。そうなの?」いきなり何を言い出すのかと思ったら。 「俺、親父みてえな職人目指してる」  そう言っていきなり扉が閉められた。言いたいことだけ言って出ていくなよ。  俺は大穴馬券で思った以上にすごいものを手に入れたのかもしれない。 〈了〉
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