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**  俺はいま競馬はやってない。いや、正確には予想はしてるが馬券は買ってない。エア競馬だ。  次の日起きて事の重大さに気がついた。格好悪いが半分は返してもらおう。だが電話は通じなかった。募集は締め切られていた。問い合わせをしたが返事がなかった。俺は騙されたのだ。  仕事場に行くとみんなに「どうした!?」と驚かれた。事の顛末を話すと爆笑された。だがみんな「そう落ち込むなよ」と俺の肩を叩き、ジュースや飯を奢ってくれた。中には奢りで飲みに誘ってくれる者もいた。  職場のバツイチの女子事務員は俺を心配して弁当を作ってきてくれるようになった。  それが今のカミさんである。五歳の男の子の連れ子がいて、俺は妻と息子を同時に手に入れることになった。  カミさんは二つ年上のしっかり者で、家事の得意ないい女房だった。料理も美味いし、性格もおおらかで明るい。俺には申し分のない女性だ。俺との子どもには恵まれなかったが、それも大した問題じゃない。  問題なのは息子だ。絶賛反抗期中だ。あれから十年以上が過ぎた。息子も高校二年生だ。よく分からないが俺へのあたりが強い。 「きっと甘えてるのよ」カミさんはそう言って笑うが、「親父うぜえ」と何度も言われる身になって欲しい。リビングのソファで横になっていても舌打ちされるのだ。心休まらない。  そんな息子が家に彼女を連れて来るらしい。 「俺はどこか出掛けてたほうがいいかな」  カミさんが夕食の後片付けをしてる姿を眺めながら、そう尋ねた。 「なんで? 家にいればいいじゃない、それに私ひとりなんて嫌だよ」 「女同士なんだからいいじゃないか」 「女同士だから緊張するの! 見てるだけで睨まれたなんて思われたら堪らないわ」 「アイツはどうせ俺には会わせたくないだろうし」 「会わせたくなかったら休みの日に家には連れて来ないでしょ。もう、気がつきなさいよ! 鈍いわね」  何が鈍いのか分からなかったけれど、まあ自分の部屋でテレビでも見てるからいいか。ちょうど競馬中継もやってるし。
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