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付き合って二年。出会って二年。私の部屋で同棲し始めて二年。
出会いは彼が勤めるマジックバーだった。
大学を卒業して今の会社に就職をした私は、ある日の会社帰りに先輩に連れられてとあるバーへと入った。
『マジックバー SAZANAMI』
「ここ凄いのよ。イケメンも多いし。ことみちゃんもハマっちゃうかもよ」
先輩はイケメンのマジシャン目当てだったらしい。
マジックバーとは、マジシャンが目の前でマジックを披露してくれるバーのこと。
プロのマジシャンの様々なテクニックを間近で見られるとあって、それなりに繁盛しているお店も多いのだという。
毎日、二~三名のマジシャンが出勤しており、カードマジックやコインマジックなどを目の前で行ってくれる。バーの中には小さなステージも用意されており、定期的に出演者がマジックを披露するという流れになっている。そして、イケメンマジシャンが在籍しているお店も多く、人気が出ればテレビ番組にも呼ばれるそうだ。
健人はそのイケメン、の中には入ってはいなかったそうだが、腕は確かで、客の心を鷲掴みにするマジックを何度も披露していた。
私もそのうちの一人だった。
綺麗な指先が器用に動いていく姿に魅了され、気がつけば先輩以上にハマっていた。
そこから足繁くお店に通い、健人と交遊を深めていった。そして、交際に至る。
彼は三十三歳。私よりも八つほど年上だ。
普段はマジックバーで働きながら、土日には営業としてホテルやイベント会場へ出向いてマジックを披露している。
無名のマジシャンの給料は安い。年収に換算しても二百万ほどしかないそうだ。仕事がない時期もあるため、収入の変動は大きいのだという。
多くのアマチュアは、現実を知って辞めていく。三十を過ぎて社会人の初任給よりも安い給料ではやっていけないのも無理はないだろう。それでも健人がマジシャンを続ける理由は、やはりマジックが好きだからだった。
時間が空いたときは常にマジックの練習に充てている。コインを触り、カードに触れる。私といるときも、よくシルバーのコインを指先で遊ばせていた。
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