恋愛魔法

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 トランプがハートのエースに変わるマジックのことを彼は、『魔法』と呼んでいた。  魔法は特別な公演のときにしか行わない。  健人のオリジナルのマジックだそうだ。それほど自信のあるもので、客を必ず驚かせられるといつも話している。  健人はマジシャン、いや魔法を使うのだから魔術師だ。私は彼の魔法に掛かっている。恋愛という魔法に。  ある休日の昼下がり、健人が営業で家を空けているときに電話がかかってきた。部屋にいた私はスマホを確認する。そこに表示されていたのは、健人とも交流があったマジシャン仲間の藤井さん。私も何度か食事を共にしたこともある。  ずっと連絡を取っていなかったのにどうしたんだろう、そう思いながら通話ボタンを押した。 「もしもし? ことみちゃん?」 「はいそうです。お久しぶりです」  そんな会話がなされ、当たり障りのない話が進んでいく。 「えっと、それでどうしたんですか?」  私は意を決してそう尋ねてみた。すると彼は、「いや、ちょっと言いにくいんだけど」と前置きをしてからこんなことを話し始めた。 「ことみちゃんて、まだ健人さんと付き合ってるんだろ? 実はさ、俺はあの人にお金貸してて」 「え、そうなんですか」 「うん。まあ五万ちょいだから金額的には大したことないんだけどさ、そろそろ返してほしいと思ってさ連絡してみたんだ。そしたら、着信拒否されてたみたいで」 「え」  健人からそんな話は聞いていない。 「それでことみちゃんに掛けてみたんだよ。ことみちゃんからあの人に言っておいてくれないかな? 返してくれって」 「……五万円でいいですか?」 「え? ああ、まあそうだね。五万でいいよ」 「じゃあ、私返します。口座教えてください。振り込みますから」 「いやいやいや、何言ってんの? ことみちゃんは関係ないじゃん。お金貸したの健人さんにだよ? ことみちゃんにじゃない」 「でも、返さないと。そうですよね?」 「いやあ、えー、おかしいよそれ。俺が言うのも変だけど、肩代わりするのはおかしいって」
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