恋愛魔法

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 SAZANAMIでのステージは大成功だった。テレビカメラが入っているということで、マジシャンたちもどこか緊張気味ではあったけれど、それぞれが自慢のマジックを披露して観客を楽しませていた。  その中でも特に健人のステージは圧巻で、どのマジックも観客を魅了していたに違いない。  そして、魔法。  おおー、というお客さんの歓声が背後から聞こえ、まるで自分が魔法を披露をしたように嬉しかった。  ステージを終えた健人は達成感に満ち溢れていて、家に帰ってからも興奮が冷めなかった。 「局のスタッフさんとも結構話ができてさ、今後もよろしくお願いします、とか言われちゃって。やっとだ。やっとだよ。ここまで苦労したけど、地道に努力し続けてきた甲斐がある」  彼の話に私はまた涙が出てきて、本当に自分のことのように嬉しかった。 「泣くなよ」 「うん、ごめんね」 「ははは、謝ることじゃないけどさ。でも、本当にありがとうな。ことみがいなかったら俺はここまで来れなかったと思う」 「もう、そんなこと言わないでよ。また泣けてくるじゃん」 「ははは、泣かそうと思ってるからな」 「もう」  健人が有名になっていく、その道筋が見えた気がした。そう思うと、どこか寂しさや切なさを感じて。彼が遠いところへ行ってしまうような。 「ねぇ健人。サイン書いてよ」 「サイン?」 「有名人になったら簡単に貰えなくなるでしょ」 「そんな大げさな。まあいいよ」  そう言って彼は自分が愛用しているトランプの箱にサインを書いた。 「あげる」 「いいの? これって、健人がいつも使ってるトランプでしょ?」 「いいよ。また買えばいいし。マジシャンは道具じゃなくて、技術だからな」 「ありがとう。ずっと大切にするから」  私はそのトランプを胸の前で大切に握り、嬉しさを噛み締めた。どんな高価なものよりも、このトランプは私の宝物になった。
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