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「別れよう」
そう言われたのは、彼が出て行ってから一週間が過ぎた頃のことだった。
「なんで? 嫌だよそんなの」
「もう決めたんだよ」
久しぶりに家に戻った健人は、荷物をまとめていく。
「ねえ、やめてよ」
「決めたんだよ。俺はさ、このままじゃダメだ。もっと自分を追い込まないといけないと思う。ことみに甘えてた。お前がいるから食事にもありつけるし、寝る場所だってある。でもそれじゃあダメだ。全てをマジックに注ぎ込む、そんな覚悟が必要だ、って気づいたんだ」
「だとしても、別れることないじゃん。なんで? 私の気持ちは? まだ健人のこと好きなんだよ」
「……ごめん。決めたんだ」
「待ってよ。そんなの、あんまりだよ。待ってよ。嫌だよ、行かないでよ、ねえ、健人、やめてよ、やめてよ」
溢れる涙を袖で拭いながら、私は必死に彼の腕を掴んだ。何度も何度も彼を揺らし、懸命に引き留めようとした。
でも、「決めたんだよ、もう」と言った健人は、私から手を振り払って玄関を出て行った。
玄関マットの上にへたり込み、子どものように泣いた。声を上げて、顔を覆い、アイメイクが完全に取れてしまうのも気にも留めず。
そうして、彼との生活は終わりを迎えたのだった。
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