紅梅

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 すでに中宮がいる宮中へ今更上がって競争ができるわけでもなし、そうかといって自ら卑下したみすぼらしい女御で置くのも本意ではありません。  春宮には左大臣の夕霧の姫が寵愛を受ける女御としているのですから、そちらと競争していくことの困難さは同じですが、そう取り越し苦労ばかりをしていて、人並み以上の幸いが受け得られる天分があると思われる娘に、宮仕えという道を塞いでしまうようなことをしてはならないと大納言は思い、上の姫を春宮の女御に出すことにしました。  十七、八歳の美しくて愛嬌の多い姫でした。  次の姫も歳はひとつ違いで、品の良い奥行きのある美人であることは姉の姫よりも勝っていました。  ただの男と結婚せるのは惜しい気がして、大納言は兵部卿の宮にお上げしたいと望んでいました。  匂の宮は大納言の息子を宮中で見かける時などはいつも傍へ呼び、親しく言葉を掛けました。  目付き額付きなどに賢さの見えるいい人柄の子です。 「私がそう言ったと言ってね、弟だけを見ているのは厭だって、大納言に言ってくれ」 などと冗談を言ったのを、家に帰って話すと、大納言は嬉しそうに微笑んでいました。 「気ばかりを揉む宮仕えをさせるより、良い娘を持ったら兵部卿の宮を婿にしておかしずきしてみたい。あのかたを近い親戚にしてみるのは実際嬉しいだろうから」 と、大納言は夫人に話していました。  一方では上の姫を春宮の女御にあげることに大納言は熱中していました。  藤氏(とうし)の后が自分の子によって再現されることなども夢見ていたのです。  院の女御の立后の望みが遂げられなかった為に一生悶々としていた父の太政大臣の霊も慰められる結果が来るかも知れぬと思うのは嬉しいことでした。  大納言の姫である春宮の女御は浅くない寵愛があると人が皆言います。  姫が宮仕えに馴れぬ間の世話は、付き添って宮中へ行っている真木柱が実母がいても出来ない程に女御を大事にして扱っていました。  二人になって残った姫達は寂しがっていました。  西の姫は大方は一緒にいた姉だったので、物足りなさを毎日覚えるのも無理のないことです。  東の姫も二人とは疎くしていたわけではなく、夜分程は三人が一つの間へ寄って寝たりもしていたのですから。  また二つ三つ上の姉である東の姫は今まで、稽古事などの場合には二人の師でもありました。  内気過ぎたひとで、母とまともに顔を合わすことも出来ない質でした。  そうかといって陰気なひとではなく、美しいことなども大納言の子より優れていました。
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