紅梅

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 女御に出したり、妹の姫の婿選びをしていることなどが、親身にばかり尽くしているようで気が咎めて、大納言は真木柱に 「東の姫の身の片付きをどうしよう、こうしようという思惑があるなら話してくれないか。私は自分の子と分け隔てをしては決していないのだ。父親として出来るだけのことはするのだから」 と、言ったことがありました。 「そんなことでご心配はあそばさないでもいいのでございます。あのひとは結婚の出来るようなハキハキしたひとではないのでございますから。結婚させて苦労させるようなことになると私達が困ります。親のいます間は面倒を見ていまして、その後は尼様にでもなった方がかえってよろしいかと思います」  真木柱はこう、泣きながら答えるのでした。  そして大納言の情けを嬉しいと思うと言ってました。  大納言は実子と同じに思っているこの姫の顔をまだ見たことがないのを飽き足らず思い、時々居間をそっと覗くことがありましたが、姫は不用意な顔の片端も継父に見せることはありませんでした。  ある日大納言は、 「母さんの留守の間は私が代わりになっていなければならないんだが、あなたは私を他人らしくするから困ってしまうじゃありませんか」 と、東の姫の居間の御簾に座りました。  姫は仄かな声で返事をしました。  愛らしい器量の、品の良い美しさが思いやられる声でした。  大納言は、自慢に思うこともあった自身の姫もこのひとと比べては劣ったものかもしれないと思いました。 「忙しいので、あなたの琴の音も聞いている間が久しくなかった。西の子は琵琶に熱心になっていますが、あなたを学ぼうとしているのだろうけどまだ物になっていないからね。よく教えてやってください。私は何が出来るものでもないが、以前の芸術の盛んな時代にあって来ているので、音楽も聞く耳だけは拵えましたよ。あなたはあまり弾かないが、時々聞くあの琵琶は昔の黄金時代の芸術の匂いがすると私は思っているんだ。昔の名人の流を伝えているのは今では六条院の左大臣だけですよ。薫の中納言、兵部卿の宮などは風流男で、前代にも劣らない方々だが、琴にも琵琶にもその音に弱弱しい所があって、左大臣の技術には及ばないそうです。それにあなたの琴は不思議に左大臣に似ていますよ。女性の優しい特性も添って私は非常に良いと敬服しているんだ。ひとつ何か聞かせてください」 と、大納言は言ってから女達に命じました。
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