宿り木

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 書かないでは返って疑われるであろうと思って女王は宇治へ行ったことを羨ましく思うということ、御殿を他へ移して寺にすることは自分の嬉しく思うことであるということなどを簡単に書いて返しました。  宮もただそれくらいの交際をしているのに過ぎないことはわかっているのですが、自身の心から推していろんな想像も起こるので腹立たしい気もするのでした。  夕風の吹く庭を眺めながら、 「あなたは物思いがあるようだね、秋の風が身に沁むだろう」  こんなことを言いました。 「空から寒い風が吹いて来るのか、あなたのお心から吹いて来るのかわからないわ」  扇で涙の零れるのを隠しました。  この優しい心を持ったひとですから中納言も忘れることができないのであろうと宮は思いました。  妬ましく思う心もそんなことで消えてもしまわない宮は琵琶を弾いていました。  女王にも琴を弾くように言うのを、 「姉のいました頃は教えてくれましたのでいくらか弾けましたけれど、今ではもう駄目ですわ」 と言って聞きません。 「こんなことくらいは私の頼むことを聞いてくれたらいいじゃないか。女というものは素直なのがいいと中納言もそう言ったよ。あのひとが弾けと言ったらあなたは弾くのだろう。仲が良いのだからね」  こんなことを言うので女王は止むを得ず琴を弾きました。  宮は催馬楽などを美しい声で歌っていました。  もうひとり夫人を持っているということは不足なようではあるが、やはり自分達の主の女王は幸福なひとと言って良いのである、誰が望んでも得られないこの境遇を捨ててまた宇治へ帰ろうなどと思うのは悪魔の思わせることだと、睦まじく見える夫婦を遠くから眺めて老いた女達は言っていました。  琴を女王に教えたりなどして宮は二条院を三日四日離れませんでした。  六条院では恨めしがっていました。  左大臣が御所の帰りに二条院へ寄りました。  宮は、 「私をどうするつもりで大層に左大臣なんかがやって来たのだ。厭になってしまう」 と、怒りながら正殿へ行って会いました。 「昔は毎日のように来た所ですからたまたまここを見ると懐かしいような悲しいような気がします」 などと他のことを話しながら、促すようにして宮を六条院へ連れて行きました。  女達はまたいろいろなことを言いました。  左大臣も美しいと褒める者もありますし、迎えになど来る憎らしい左大臣であるという者もあります。
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