匂宮

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 夕霧はあまり続けて同じような縁組ばかり娘にさせておくことも本望ではないのだという風にしていましたが、また宮の方から望まれるなら断りはしないという様子も勿論見せていました。  そして兵部卿の宮を労わり、親切な心遣いをしてもいました。  六人目の姫が、その頃思い上がった親王達や高官らが恋する的となっていました。  源氏の君が亡くなった後、六条院や東の院などに置かれた女性の誰も泣く泣く自身の家と決めた所へ移っていきました。  花散里は東の院を遺産のひとつとして分けられたのでそのままそこへ住んでいました。  女三の尼宮は朱雀院から分かたれた三条の宮に移りました。  中宮は宮中をあまり出ないので、六条院は寂しく人少なになっているのを、夕霧は今まで人の上で見て生きていた間一代の栄華の家が影もない淋しいものになって取り残されているのは故人の為に見良くないことであると、せめて自分のいる間だけでも六条院は昔と変わらない華々しい所としておきたい、付近の街の人影の見えることの少ないようなことはさせたくないと思い、紫の上のいた御殿へ一条の女二の宮を移らせ、雲居の雁のいる三条の家と一夜置きに月十五日ずつ来て泊まっていました。  二条院といって作り磨かれ、六条院の春の御殿が地上にまたとない歓楽の邸に形作られたのも、皆ひとりの女性の末の幸福を見る器に過ぎなかったのか、明石の上は多くの宮方の世話をしながら、この一族の大母の如き有様でいました。  夕霧は源氏の君の妻であったひととして、花散里にも明石の上にも変わらぬ母としての尊敬を尽くして持て成していましたが、紫の上がこうして寡になって残っていたのなら、どんなに母として自分は自己を傾倒して仕えたか知れない。  一生そのひとは自分の志らしい志を見知らないで死んでしまったと思うと残念でならないのはこのことでした。  天下の何人も源氏の君を恋い慕わない人はいません。  何事につけても火の消えたように思われるという嘆きを皆がしていました。  まして一家の人々は、連れ添っていた人々、孫の宮達から始め、挙って源氏の君のいない甚だしい悲しみの毎日を送っているほかに、紫の上を思い出さぬ時もありませんでした。  二品(にほん)の宮の若様である薫は、源氏の君の託した通りに冷泉院の上皇が特に大切にして慈しんでいました。  皇后宮も皇子などをお持ちでない心細い思いもあり、このひとの世話をやくのを嬉しく思っているのですから、何かと心を尽くしていました。  元服も冷泉院で行われました。
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