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宮はまた明け暮れ衣服に薫き染める香の様々を合わせるのに骨を折り、花といえば、春は梅、秋には菊や藤袴などの香高いものばかりを好んで庭に植えさせ、香のひとということを標榜していました。
こんなかたですから少し道楽に傾き過ぎたという批評も自然と受けることになりました。
源中将である薫はこの宮とはことに親しく付き合っており、管弦の遊びなどにもいいお相手でした。
世間という多弁な陰口者は、匂の兵部卿、薫中将と対にして並べていうのでした。
この頃いい娘を持った親達はこの二人の公達を誘い寄せたい為に我が娘のことを近しい者達に吹聴させたりしていました。
宮は悪くない見込みのある娘達には随分文を送りました。
しかし熱心に恋を遂げようとする程のひとも今までにはないようでした。
冷泉院の女一の宮と結婚が出来たならと宮は思っているのです。
母の女御も優れた人柄という評判の高いひとですし、その姫宮が美しいということは誰もがいうことなのである上に、その方へ伺候することもある女達が兵部卿の宮に、実際に目の当たりにした姫宮の様子をことに触れて耳に入れるので、いよいよ宮はこの恋に憧れていたのでした。
薫は世の中を儚いもの、厭わしいものと思い込んでいるので、結婚した為に心が引かれて出家の望みが遂げにくいことになるのを苦しく思い、そんなことは断念している風に見えました。
表立ったことではなくて身に沁む恋もある筈ですが、それもないのは余程誘惑に遠い心を持っていると見る外はありません。
十九の年に三位の宰相になり、なお中将も兼ねていました。
今上、后の寵遇を一身に集めているひとでありながら、内にある悲しみがいつも心を押さえてその為に軽はずみをせずにすむこともあったのでしょう。
浮いたひとでないということもよく世間では認められていました。
兵部卿の宮が憧れている姫宮とも同じ院の中にいては事に触れて若い心のそそられる思いもせぬではありません。
妻を持つならこれ程のかたをと思うのが人間の真実です。
しかし子と思う程の持て成しはあっても、姫宮との中は隔てるように院が仕向けるのを知っては、強ちに近寄ろうとは思いませんでした。
恋の心が付いた日は自分もそのかたも不幸の生涯に入る初めの日であるとまで思いました。
しかし、薫は恋をせられるように作られたようなひとですから、ありの遊びの歌や短い文をこのひとから送られた女は皆恋しがって進んで情人となりました。
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