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通い所も一つ二つではないようになりましたが、心から愛している女性というのはいないのです。
もとより妻にしようなどと思うのではありません。
やがて別れた時、女の為に自分とのそれまでの関係が世間に知れぬよう、今から表だたぬ用意もしているのでした。
情熱のある女は飽き足らず女三の尼宮の侍女になって三条の宮に来ていました。
そのような女は決して一人や二人ではありません。
一家の中に入れば、浅くとも長い縁は繋がれていると思うのでしょう。
奉公に出る身分でない者もここには来ていました。
夕霧もたくさんある女の子の中から誰かをこのひとに娶せたい心があるのでしたが、さすがに自身の方から言い出すこともできませんでした。
これはまたあまりに内輪同士過ぎた縁組になることを気付いていないではありませんが、このひとを他にして若い人の中に相当するだけの人物のないことを考えては、それがまたとなく望ましいことになるのでした。
藤典侍の生んだ六の君は姉妹の中で優れた美しい娘で、性質にも欠点はありませんが、正妻腹に生まれなかったということが引け目になっては不愍であると思い、まだ子をひとりも持たない女二の宮の手許へ引き取っておきました。
六条院にいれば自然と兵部卿の宮や薫の目に付く機会も多いことと思い、夕霧が計らったことでした。
華やかにその娘の周囲を繕って、若い男の心を引く工夫がすべてし尽されてありました。
正月の宮中の賭弓後の饗宴を六条院で催して宮達をも招待しようとしました。
その日は元服した親王達が皆御前で勝負を見ました。
その中でも匂宮つまり兵部卿の宮の美しさは目立ったものでした。
第四皇子常陸太守の宮というのは更衣腹で、心なしか劣って見えます。
例年の決まりのように左が気の毒な程勝つのでした。
いつもより早く果てて、兼左大将の夕霧は自身の車へ匂宮、常陸の宮、中宮腹の五の宮を乗せて宮中を出ようとしました。
右中将の薫は今日は負方なのでそっと帰ろうとしているのを夕霧が見留て、
「宮様方のお送りに一緒に来てはどう」
と勧めて、伴って行きました。
衛門督、権中納言、右大弁などという息子達、その他の高官達も大勢六条院へ向かう車に乗っていました。
道を少し遠く行った頃に雪が降り出して艶な黄昏時となりました。
笛などをおもしろく吹きながら人々は六条院へ着きました。
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