そばにいられるだけで

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「ねえ」 「ん?」 「こういうの、誰かに見られたらどうするの? 龍聖君……嫌じゃないの?」 つい聞いてしまった。 答えを聞くのは怖いのに。 「どうして? どうして手を繋ぐことが嫌なことになるんだ? 俺達は夫婦なのに」 「ふ、夫婦っていっても……私達は契約結婚だから」 しばらく龍聖君は黙ってる。 何か考えてるみたいだった。 そして、少し間をおいてからポツリと言った。 「どんな形でも、夫婦は夫婦だから。お前は鳳条 琴音。今は俺の大切な奥さんだ」 龍聖君…… そんなセリフが返ってくるなんて予想もしてなかった。 ドキドキして胸がキュンと鳴って、ちょっと泣きそう。 でも……同時に切なくもなった。 今だけは戸籍上の奥さんかも知れないけど、いつかは…… 紙切れ1枚でお別れする未来がきてしまう。 それを思うととても悲しくて、苦しくて。 龍聖君はズルいよ、私の気持ち知らないくせに…… もうすぐマンションに着いてしまう。 まだもう少し、こうして手を繋いで話していたかったのに。 私、楽しかった今日のこと、絶対に忘れないよ。 そして明日も、龍聖君の隣で笑っていたい。 空を見上げると、吸い込まれそうなくらい静かで美しい世界が広がっていた。 とても……綺麗な夜だった。
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