生贄の少女

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 ◆  神は外界とは隔絶された神域と呼ばれる世界の中心に居る。  神域はいわば世界の心臓部。神の力に満ちた、すべての命の根元ともいえる場所。神はこの場所から自らのエネルギーを世界中へ送り、生命を育む豊かな土壌を作り出している。  神にもっとも近い神域はもっとも神による恵みを受ける場所になる。それはこの世界でも同じ。わき上がる泉、透き通った水辺に集まる動物達。恒星の灼熱は生き生きと伸びた木々達によって遮られ、さわやかな風が吹き抜ける。先ほど目にした砂礫の大地が嘘のよう、豊かな自然にあふれた生命の宝庫だ。  光の遮られた森は薄暗くはあるが、不思議と心地よい。湿気をはらんだ重苦しさは全くなく、晴れやかなひだまりに似た清々しさで満ちている。青々と茂った緑の隙間から鳥がさえずり、花咲く野を小動物が自由に駆ける。生命のすべてが伸び伸びと、その輝きを謳歌して美しい。ここはこの世界に残された最後の楽園だった。  息を吸う。澄んだ空気が肺に満ちる。どこからか漂う甘い花の芳香を感じた。神域は結界によって外とは分け隔てられている。人間が立ち寄る場所ではないので、道という道は存在しない。生い茂る草木をかき分けて、中心に向けて歩みを進める。  ぐんぐん育った植物たちは、こちらの都合など知らんといった顔で堂々行く手を阻んでくる。一つ草をかき分けたと思えば。待っていましたと言わんばかりに次の草木が顔面に飛び込んでくる。嫌がらせかと思うほど顔面をびしばしと叩いてくる。ああくそう、面倒くさいぞ。
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