降り立った裁定者

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降り立った裁定者

 この世界はすべて物語だ。  一滴の水がやがて大河をなし、海となる。絶えることのない大地の脈動が、新たな陸地を生み出す。それもまた、壮大なるストーリー。そうして造られた舞台にやがて命が生まれ、新たなを感動をつむいでいく。  一つの命が生まれ、死ぬ。それまでの過程。無数に集まり、関わり合い、群をなし、やがては社会を形成していく。多くの命と関わり、ときに助け合い、ときに糧とし。何かを得ては、何かを失い。生と死を幾重に重ねて、衰退と進化を繰り返して、連綿と続く命の営み。織りなされていく数多の世界。そこで繰り広げられるドラマは『彼ら』にとって極上の物語なのだ。  僕は、そんな『彼ら』の為に、この世界(ものがたり)を見定めに来た。 「うん。駄目だな、この世界は」  一面に広がるは砂礫の景色。命の気配のない大地を見下ろして、ぽつり。呟いた。  急下降して、地に降り立つ。枯れた大地を踏みつける。草木一本ありはしない。埃っぽい、乾いた空気が辺りに漂っていた。  彼ら――『創造主』たちは物語を愛している。  ある命が紡いだ、誕生から死までの時間。そこに他の命が複雑に絡み合って、一つの物語が生まれる。涙なしには語れない、感動の物語。一瞬先の展開も予測できない、手に汗握る興奮の物語。ひとつとして同じものはない、植物、虫、動物……命の数だけ、ざまざまな物語がある。唯一無二の命が生み出す、壮大なドラマ。彼らはそんな物語を読み物として楽しんでいる。
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