15人が本棚に入れています
本棚に追加
全員が音楽室から出て行き、ピアノの蓋を閉じる。
準備室に彼らが片付けた楽器のチェックをして、窓を施錠、机の中の忘れ物確認をした。
「あっ、リコーダー……」
名前を見ると理貴のものだった。
教室で担任と共に帰りの会を済ませ、「さようなら」と声を合わせた挨拶が、さっきからあちこちで聞こえていた。
ここでの授業が最後だからと、楽器の整頓をしていて、時間がかかってしまった。
もう下校に向けて、教室から校庭に出ている頃だろうか……
私は理貴のリコーダーを掴むと、音楽室のドアから真っ直ぐ続く廊下を小走りで急いだ。
廊下の突き当たりから一つ手前、彼らの教室にはもう誰も居ない。
「あぁ〜もう校庭で並んでるか……」
私はその奥の階段を急ぎ足で下りる。
すると、2階から階段を上がって来た翔と、踊り場でバッタリ遭遇した。
「翔くん、何? 忘れ物?」
「いや……」
翔は一旦私と合った目を床に落とし、言い淀む。
「じゃ、何? もうみんな外で並んでるんでしょ? 急がなきゃ」
ふと翔の視線が、私が持っているリコーダーに動く。
「それ……忘れ物?」
「そう! 理貴くんのだった。渡しに行こうかと」
「あぁ、じゃ、おれ、渡してやる。同じ通学団だし、同じ団地だし」
そう言えば聞いた事がある。
二人は保育園も同じで、低学年までは仲が良かったのに……と。
「ああ、そうだったね。じゃお願いしようかな」
そう言って渡したものの、翔は急いで階段を下りるでもなく、また床に目を落とす。
最初のコメントを投稿しよう!