最後の授業

11/15
前へ
/15ページ
次へ
全員が音楽室から出て行き、ピアノの蓋を閉じる。 準備室に彼らが片付けた楽器のチェックをして、窓を施錠、机の中の忘れ物確認をした。 「あっ、リコーダー……」 名前を見ると理貴(りき)のものだった。 教室で担任と共に帰りの会を済ませ、「さようなら」と声を合わせた挨拶が、さっきからあちこちで聞こえていた。 ここでの授業が最後だからと、楽器の整頓をしていて、時間がかかってしまった。 もう下校に向けて、教室から校庭に出ている頃だろうか…… 私は理貴のリコーダーを掴むと、音楽室のドアから真っ直ぐ続く廊下を小走りで急いだ。 廊下の突き当たりから一つ手前、彼らの教室にはもう誰も居ない。 「あぁ〜もう校庭で並んでるか……」 私はその奥の階段を急ぎ足で下りる。 すると、2階から階段を上がって来た(かける)と、踊り場でバッタリ遭遇した。 「翔くん、何? 忘れ物?」 「いや……」 翔は一旦私と合った目を床に落とし、言い淀む。 「じゃ、何? もうみんな外で並んでるんでしょ? 急がなきゃ」 ふと翔の視線が、私が持っているリコーダーに動く。 「それ……忘れ物?」 「そう! 理貴くんのだった。渡しに行こうかと」 「あぁ、じゃ、おれ、渡してやる。同じ通学団だし、同じ団地だし」 そう言えば聞いた事がある。 二人は保育園も同じで、低学年までは仲が良かったのに……と。 「ああ、そうだったね。じゃお願いしようかな」 そう言って渡したものの、翔は急いで階段を下りるでもなく、また床に目を落とす。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加