最後の授業

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彼が不貞腐れて教室を出て行く事は珍しくない。 動向を目で追いながら、黒板横に設置されたインターフォンの受話器を取る。 「5の2、真中(まなか)です」 「はい、すぐ行きます」 職員室に直通のその電話は、それだけで教務主任の返事が帰って来る。 今回だけに限らず、それが鳴れば、教室で何かトラブルがあったという事を意味し、状況を話さなくても職員室に居る誰かが駆け付ける手筈なのだ。 しかし、それより早く隣の教室に居た支援員の小嶋(こじま)が、廊下を歩いて行く翔の姿を見て、飛んで来てくれた。 「(みどり)先生、私行きます」 「ありがとう。でも小嶋先生はこっち頼めます? 子ども達が質問出し合ってまとめてるから、見てて欲しい。ついでに職員室に応援不要って伝えて下さい」 「分かりました」 例えば何か問題が起きて児童が暴れようとも、教室の中に居てくれさえすれば、まず助けは呼ばない。 教室の外、他の空き教室だったり、体育館の裏、倉庫の陰、教師の目が届かない場所で、怪我や事故でもあれば、大変な事になる。 (まれ)に、校外に出て行ってしまった事例だってあったのだから……。
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