最後の授業

7/15

15人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「でもっ、おれの字のこと、バカにした!」 「翔くん、普段はもっと上手な字書くよね? 先生知ってるよ。 多分、今日のはちょっと嫌嫌(いやいや)やってたとこあるんじゃない? 字ってその時の気持ちが出るのよ」 「うん……おれに記録係やらせたの、理貴の嫌がらせだと思ったから……」 「そっか。あぁ〜良かった!」 「は?! 何が」 「話し合いってするもんだなぁ……って。お互い怒って話もしなかったら、『本当のこと』なんか分からないじゃない?」 「ほんとうのこと?」 「そう。今、私は翔くんと話して翔くんの本当の気持ちを知った。 だから、理貴くんとも話せば、分かり合えると思う。理貴くん、ここに呼ぶ?」 「はっ?! 先生、おれが言う事じゃないけど、今、授業中。 真面目にやってる理貴までここに呼ぶの?」 「ははっ。そういう気持ち持てるなら翔くん大丈夫だね! うん、今日だけよ。 私だってこれから先、また翔くんが教室出てっても、毎回追い掛けたりしないからね。 授業できなくなるの困るし」 私は立ち上がり、翔に笑顔を向けると、3階への階段を上る。 目を見開いて面食らった表情をしていた翔は、私が階段を上り切って振り返ると、落ち着かない様子で首の後ろを搔いていた。 理貴が本当にどう考えていたのか分からない。 「あいつばっかり何もやらないでズルい」と思っただけかも知れない。 もしそうだとしても、理貴が翔のことを諦めなかったのには違いない。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加