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理貴を連れて来ても翔は顔を上げない。その隣に私がしゃがみ、私を挟んで理貴も壁に背中をつけて膝を立てて座る。
そして私は、さっきの翔の気持ちを代弁した。
「嫌がらせ? そんな事してないっ! ただみんな順番に役割を……」
「そうよね? 理貴くんはみんな同じにしたかったのよね?」
理貴は自分の膝を見つめたまま深く頷く。
「ほらぁ〜翔くん、先生が言ったの当たってたよ」
翔は顔を上げない代わりに、片手で自分の頭を乱暴に撫で回した。
――「ごめんね」
「いいよ。僕もごめんね」
「うん、いいよ」――
……そんな低学年のように、単純にはいかない。
大人の意思で言い包めて、無理に和解をさせる、そんなやり方はもう通用しない年齢だ。
11歳……。まだまだ子どもではあるが、自尊心、劣等感、自分の存在価値の有無、様々な感情が芽生える。それが幼い心の中で闘って、何が本当なのか、気持ちをどう表現したら良いのか分からなくなるのだろう。
翔は理貴に謝る事はできなかった。
しかし、私が代弁したお互いの気持ちをちゃんと理解できたか、との問いには、深く頷いていた。
理貴も同じだった。
理貴を先に教室に戻らせ、翔にもう一度向き直る。
「さっき鉛筆が当たった祐奈ちゃんには、きちんと謝ること。
もし、鉛筆の芯が顔や目なんかに刺さったりしたら大変だったんだからね」
「……うん」
「それと蹴り倒した椅子さんにも」
「はっ? 椅子?」
「泣かないし、文句も言わないけど、きっと痛かったと思うよ」
一瞬、目を見開いた翔の顔が、ふっと緩む。
「そっか。うん、分かった」
「よし、じゃ、戻ろう」
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