最後の授業

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不測の事態で、授業が中断する事はよくある。 『45分の授業で、ここまで終わらせる。それを決まった時間数でこなし、一単元を終える』 カリキュラムでそう決まっていても、なかなか思うように進むものではない。 子ども達の理解度や実習が思うように進まない時、 今回のように子ども同士の揉め事など。 どれを取っても子どもが主体であって、大人の事情で軽くあしらい任務をこなせば良いってものではないのだから。 ・・・・・・・・・・ ――3月中旬―― 「はい、それでは5年生の音楽の授業はこれで終わりです。 私の他の授業は、もう全部終わってるから、これで最後ね」 「先生、もう他の学校行っちゃうの?」 「それは分からない。 他の学校へ行くかも知れないし、ここに居るかも知れない。 他の先生達もそれは同じ。 でも、もしかしたら貴方達が6年生になった時、私は居ないかも知れないから、ちゃんと言っておくね。 昨日の『6年生を送る会』でも言われたよね?  『最高学年になるから、みんなのお手本になれ』って。 うん、それは大事。是非目標にして欲しい。 それと私からはもう一つ。他人(ひと)の気持ちになって考えられる人になって下さい。 『想像力があれば争いは避けられる』 自分がこう言ったら相手を傷つけるかも知れない。 こうすれば喜んでくれるだろう。 それを考えるだけで喧嘩は起きない。相手に優しくなれると思う。 難しいけどね。でも頭の片隅に入れといて」 笑顔で頷く子。 少し涙目になっている子。 私の心を受け取ってくれたのなら、それは嬉しい。 そう…… もう私は貴方達が最高学年になった誇らしい姿を見る事はできない。 異動の内示は既に出ているのだから。 そして今ここで、お別れを言う事も許されない。
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