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回想
パン……!
乾いた音が高らかに鳴り響いた。
何事かと反射的に振り返る。その間、コンマ一秒。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
相棒が――将来を約束した恋人が、目の前でゆっくりと倒れていく。
「冴場さん!」
慌てて駆け寄り、その逞しい身体を受け止める。
触れた背から、生温いものがじわりと溢れ出す。
「た、ち……ばな……」
熱い吐息に混じった声が、鼓膜で震える。
「俺は、いいから……早く追え……」
「でもっ!」
「行け……! これは、上司命令だ」
上司命令――今まで何度も言われてきたこの言葉に、今ほど理不尽を覚えた瞬間はない。
最後の気力を振り絞るようにジャケットの肩を掴んだ彼の手を、乱暴に振り払う。
「橘……」
「従えません」
俯いたまま、きっぱりと答える。
「見捨てるなんて出来るわけないじゃないですか! ここで貴方が死ぬ覚悟なら、私だって一緒に――」
パン!
怒涛のままに捲し立てた言葉は、乾いた破裂音によって遮られた。
ダサくてお前らしいと、今まで散々揶揄われた丸眼鏡が吹き飛ぶ。
撃たれたくせに、一体どこにそんな力が残っていたのか。
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