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十年も苦楽を共にしたのだ。二人は、特別な絆で結ばれていることだろう。――それこそ、元相棒の殺意に気づいてしまうほど。
「坂江さんは相変わらず元気か?」
「ああ。親父も息子も、まだまだ現役だ」
そのやり取りに、また涙が零れる。
『さかえ』に親父と息子――ほぼ間違いなく『坂江組』のことだ。
つまり、若頭の坂江彰人とレンさんは繋がっていた。坂江が庇っていた人物は、レンさんだったのだ。
二人の会話はそれ以上続くことはなかった。
「すみません、お待たせしました」
「おう、大丈夫か?」
わざと明るい声を出して、病室に戻る。二人の顔は見れなかった。
「なんか新鮮だな。お嬢のスッピン」
「あ、おいコラ見んな。沙紀のスッピン見ていいのは俺だけだ!」
「どっちも見るなバカ!」
私を巻き込み戯れ合う二人は、いつもと何も変わらない気がした。
それが却って苦しくて、私は二人の隙間から逃げるように窓の外に目をやった。
広い公園の一角に、満開の桜が植わっている。
いつだったか、あの下で三人、慰労会をしたっけ。
『まさみ~ん。酔っちゃった♡』
『誰が“まさみん”だコラ』
肩に撓垂れ掛かる龍二さんの頭を、レンさんが容赦なく叩く。
そんな和やかで屈託のない光景が、私の脳裏でゆっくりと薄れていく。
やがて桜と共に、泡沫の如く消えた。
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