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ジャケットかワイシャツか。染み付いた煙草の匂いが鼻先を擽る。
「あ、あの……レンさ――」
「別に何もしねえよ。ただ……今のアンタには、泣く場所が必要だ。……違うか?」
戸惑う私の声を遮り、いつもと変わらない淡々とした口調で言葉を重ねてきたレンさん。
そうやって、最後は必ず相手に答えを委ねる手腕を、こんなところで発揮しないでほしい。
強がりな私が、泣き顔なんて見られたくないと思っていることは、この人にはお見通しなのかもしれない。
やっぱりレンさんは、刑事の中の刑事だな。そう思うと少し笑えてきた。
「なんだよ、笑ってんのか?」
「流石レンさん、言動までイケメン」
「何言ってんだか……。そういうのはな、自分の男に言ってやれ」
疲労のせいか、不気味に肩を揺らして意味不明なことを口走った私に、レンさんは苦笑混じりに真面目に返した。
自分の男――その言葉が、今日以上に重みを持って胸に響いた日はない。
お願いだから、死なないで。一秒でも早く起きてきて。貴方は私の相棒でしょ。
「死んだら許さないんだから……!」
拳で軽く叩いたつもりが、思いのほか強かったらしい。レンさんが小さく噎せた。
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