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「アンタが綺麗だってこと、俺は前から知ってたから」
いつもはギイギイと嫌な音を立てる扉が、今日は音もなく閉まった。
◇
翌朝、彼の意識が戻ったと連絡が入り、私はレンさんと共に急いで病院へ向かった。
「冴場さん!」
病室の扉を勢いよく引き、思わず声を上げると――。
「おう、橘。レンさんも来てくれたのか。おはよう」
ひらりと右手を翳し、いつも通り唇の端を不敵に引き上げた彼に、つかつかと歩み寄って拳を振り上げる。
「『おはよう』じゃないですよ! どれだけ心配したと思ってるんですか!」
「わかってるって。挨拶くらい、いいだろ別に……」
明るくやり過ごそうとしたのか、苦笑した彼だったが、最後の言葉で語尾が弱々しく萎んだ。
私が泣いていることに気づいたからだろう。
「ごめんな……悪かったよ。心配かけた」
声音を真剣なものに変えると、私の頭をそっと胸に押しつけた。
◇
女の涙には弱い。好きな女の涙には、尚更弱い。
子供のように顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる沙紀を目にし、龍二は固めた決心が揺らぐのを感じた。
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