回想

14/16
前へ
/17ページ
次へ
 しかし、いつかは必ず真実に向き合わなければならないのだ。今受け止めるのは辛いだろうが、先延ばしにすればもっと辛い。  龍二(りゅうじ)は自らの過去を振り返ると、改めて決心を固めた。  ――沙紀(さき)に事件の真相を伝えよう。 「レンさん、悪ぃけど、そこのリンゴ切ってくれねえか。この通り両手が塞がっちまってるもんでな」  所在なさげに頭を()いている廉崎(れんざき)将己(まさみ)。その背に向かって、悪戯(いたずら)に呼びかける。  振り返った廉崎は、やれやれと肩を(すく)め、苦笑しながら側のテーブルに歩み寄った。 「……ったく、それくらい別にいいけどよ。――お嬢、アンタは一応、今職務中だってこと忘れるな」 「は、はいっ、ずびまぜん……」  テーブル上の箱からティッシュを大量に抜き取って顔に押し当てると、素早く恋人(龍二)から離れて姿勢を正した沙紀(さき)。  その顔を見た二人は同時に噴き出す。 「ひっでえ顔!」 「早く洗ってこい。目元()れちまうぞ」  小走りに病室を後にする沙紀を見送ると、龍二はここで初めて廉崎を真正面から見据えた。表情は、二人とも真顔だ。 「レンさん」  先に龍二が口を開いた。 「俺が今から話すこと、わかってるよな」
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加