回想

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 まるで、獲物を前にした(たか)のような眼差しだ。背筋に震えが走る。  署にしょっぴかれるや否や、呆気なく自白した赤シャツ男とは桁違いの迫力だ。  しかし、目の前の男は悪の権化(ごんげ)。バッジを貰って間もないチンピラのように、簡単に丸め込めると思うな。  倒れたパイプ椅子を立て直すと、男の目を見つめたまま座って仕切り直す。 「悪いわね。アンタの茶番がつまらなさすぎて、ついカッとなっちゃった」  引っ詰め髪を解き、ワイシャツを第三ボタンまではだけながら微笑すると、男は満足気に口角を上げた。  男の名前は坂江(さかえ)彰人(あきと)――指定暴力団『坂江組』の若頭だ。  今こうして坂江を取り調べている理由(わけ)。それは、先に私がしょっぴいた赤シャツ男に、彼の殺しを指示したことが判明したから。  実行者が自白したのだから、後はこの男が指示したことを認めれば、解決のはずなのだが――。  どうもしっくりこない。  そもそも若頭ともあろう人間が、半年前にバッジを貰ったばかりのチンピラ(赤シャツ男)に、殺しを指示するだろうか。  殺人に慣れていない上に、口だって軽い。私が坂江だったら、絶対あんなひよっこ(・・・・)に頼まない。  もう一度、裏を取ろう。そう思い、立ち上がった瞬間、坂江に手首を掴まれた。  
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