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「俺が指示した」
「……は?」
「俺が、神田川に冴場を殺れっつったんだよ」
「嘘ね」
間髪入れずに返すと、坂江はフッと顔に似合った艶やかな笑みを零した。
「何だよ。俺の自白が欲しかったんじゃねえのかよ」
しかし柔らかな声音とは裏腹、私の手首を締め付ける力は益々強くなる。
逃がすかよ。――言葉なくとも目だけで、そう言っていることは明らかだった。此奴は黒幕を庇っている。
赤シャツ男もそうなのだろうか。――いや、あの様子だと、恐らく何も知らされていないだろう。
何より、足のつきやすい実行犯に、殺人計画の全てを打ち明けるのは賢明ではない。
「ねぇ坂江……本当のこと話して。正直に話してくれたら……」
違法なんてあってはならない。一警察官として、その思いは今でも変わらない。しかし――。
『ここじゃ綺麗事なんて通らねえよ』
彼がいない今、誰がこの役目を引き受けるのか。
「内藤のクスリの件、目ぇ瞑ってあげる」
糸目の奥――坂江の表情が僅かに変わった。私はその隙を逃さず「どうする?」と返答を促す。
警察とヤクザの関係は、持ちつ持たれつ。
かつて私が理想に掲げていたように、ありとあらゆる暴力団を根絶やしにするのは、食い扶持を自ら捨てているに等しい。
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