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「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」
隣で小さく呟く声がした。桜の木からその声の方へと視線を移すと、風に乗りヒラヒラと舞い散る花びらの中で、優しく目を細める空の横顔。
瞬間、トクンと心臓が脈打ち、目が釘付けになる。同時に、私はあの歌に託された在原業平の想いを理解した。してしまった。
「ん、どうかした? サクラ」
「……別に! 桜が綺麗だなって思っただけ!」
生まれて初めて覚える感情。心に咲いた「のどかでない」それを、私は憎っくき桜のせいにした。
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