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「俺もちょうど学校に行く途中であの場に居合わせてて、助けに行こうとしたんだ。そしたらサクラが先に現れて、『わぁ、お兄さん超カッコイイ! その子じゃなくて私とデートしない?」なんて猫撫で声で言い出すもんだから、驚いたよ」 「やめてっ! 言わないで!」  そう。私がとった方法は、逆ナンパで男を撃退するというものだった。突然現れたブス女から強引に迫られたナンパ男は、身の危険を感じたのかすぐに去って行ったが、まさか、あんなところを見られていたなんて。 「ど、どうして助けたって分かったの? 傍目にはヤバい女にしか見えなかったと思うけど」 「確かに、あの女の子も助けてもらったっていうのにドン引きしてたもんな」  ケラケラと笑う空をキッと睨みつける。空は「ごめんって」と心にもなさそうな謝罪をした後、続けた。 「俺も最初はどっちか分からなかった。だから、話しかけて確かめることにしたんだ」 「どういうこと?」 「俺って見た目だけは結構イケてるだろ? だから話しかけて俺も逆ナンされたら、本当に男漁りしてただけなんだって分かるってこと」  なるほど。ようやく、あの日のことに得心がいった。話せば話すほど、空が見ず知らずの人に話しかけるタイプとは思えなかったから。 「あの日サクラに冷たくあしらわれて、俺、めっちゃ嬉しかった。この子は自分が傷付いてまで人を助けられる、綺麗な心を持った人なんだって」  ……なんだこれ。変態みたいなことを言われているのに、なぜか口角が吊り上がってしまう。必死に表情筋に抗っていると、空は「桜の花言葉って知ってる?」とさらに続ける。 「いくつかあるんだけど、その中の一つに『精神の美』っていうのがあるんだ。ね、やっぱりサクラって名前は君にぴったりだろ?」  もうダメだ。顔が熱い。絶対今、真っ赤になってる。  空にバレないように右手で顔を覆いつつ、左手で空の肩をバシバシと叩く。空は「痛い痛い!」と楽しそうに笑っている。誤魔化せただろうか。 「ここまででいい! じゃあね!」  一方的に宣言して駆け出す。何十メートルも離れてからおそるおそる振り返ると、空はまだこっちを見て手を振っている。私は手を振り返さず、逃げるように家まで走り続けた。
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