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 親睦会の日から数日、私はずっと家で暇を持て余していた。学校に行こうかと思う日もあったけど、もし空に会っちゃったらと思うと怖くて行けなかった。どうしちゃったんだろう、私。  今日は久しぶりに外出する。サークルの日、という大学サークルの新入生勧誘イベントがあるからだ。  懇親会の帰りに貰ったサークル紹介のパンフレットを見て、実はもう目星を付けている。この前みたいに迷子にならないよう、しっかりブースの位置を確認してから家を出た。  キャンパスに着くと、正門奥数メートルの位置から各サークルの仮設テントがズラリと立ち並んでいる。さて、お目当てのブースは……。 「あっ、いたいた! サクラ!」  すっかり耳に馴染み始めてしまった低い声に、びくり、と大袈裟なほど反応してしまう。会いたくなかったはずなのに、空の姿が視界に入った瞬間思わず笑みが溢れた。感情が慌ただしくて、我ながら意味が分からない。 「どこのサークルにするか、もう決めちゃった?」 「う、ううん」  決めてきたのに、なぜか首を横に振ってしまった。空の表情がパァッと明るくなる。 「俺、一つ気になってるサークルがあるんだけど、一緒にどう?」  そう言って空はパンフレットの中の一つのサークルを指差す。  古典研究会。奇しくも私が考えていたサークルと同じだった。あの日のようにまた勝手に顔がニヤけてしまい、慌てて取り繕う。 「あっ、見てよサクラ! ほら!」 「……あっ」  空に言われるがままに顔を上げると、正門脇の桜の木が少しだけピンクに色付いていた。「綺麗でしょ?」と言う問いかけに素直に頷く。空と見る桜は、不思議といつもより煩わしく感じなかった。
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