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 私には妹がいる。妹は私と違って器量が良く、名前はウメという。  ウメはそのちょっと古めかしくて地味な名とは裏腹に、生まれた瞬間から、ぱっちりした二重やキリッとした鼻筋で周りの人を魅力した。現にウメが家に来てすぐ、両親の関心が全て彼女に移ってしまったと感じたことをはっきり覚えている。私がまだ3歳の時だ。  ウメが小学生になる頃には、私の同級生もウメに関心を寄せ始めた。珍しく男子が話しかけてきたと思えば皆ウメが目当て。私は惨めな思いを何度もした。  高学年ぐらいの時、父から「付ける名前が逆だったな」と冗談めかして言われたことは今も忘れられない。それ以来私はずっと父が苦手だ。  中学になると国語の授業で古文に触れる機会があった。先生の説明によると、平安時代以降「花」といえば基本桜のことを指すらしい。そんな昔から桜は美しさの象徴だった。  授業中、1人の男子が「変なの。こっちのサクラはブスなのに」と言った。皆が笑った。あろうことか、先生まで。私は自分の名前を呪った。  そういえば、その授業の中である短歌が取り上げられていた。在原業平が詠んだという桜に関する有名な歌だ。
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