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私が黙っていると、沈黙の意味を履き違えた男があっと声を上げた。
「もしかして先輩でした? すみません、タメ口きいちゃって」
「……いや、私も一年生だけど」
「なんだ、良かった! 黙ってるから失礼な奴って思われたのかと心配したよ!」
いや、その認識は合ってるよ。先輩以前に、初対面でこんなグイグイ来るのはおかしい。眉を顰める私をよそに、男は勝手知ったる友達のように話しかけてくる。
「俺は春名空。愛知出身。浪人してるから今年で20歳。君は?」
「……小川サクラ」
「サクラ! 良い名前だね、君にぴったりだ!」
……これは嫌味だろうか。初めて会った人間の地雷をここまで的確に踏み抜くなんて大したものだ。私は不機嫌を隠さずに尋ねる。
「何か用ですか? 道を聞きたいのならどこかそのへんで上級生でも探してください」
「いや、用っていうか、話でもしたいなーと思って」
男はまるでナンパ師のようなことを言うが、あいにくナンパなんてされるような容姿じゃないことは分かっている。つまりこれは怪しい勧誘か何かだろう。
私は腰を上げ、鞄を肩に引っ掛ける。
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