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 寝苦しさで勝手に目が覚めた。枕元の時計を見ると、アラームをかけた時刻より30分も早い。もうそろそろ寝巻きも薄手のものに変えなきゃと、私は小さく嘆息した。  今年もまた憂鬱な季節がやってきた。  予定より早いが、ベッドから起き上がり外出の準備を始める。今日は学部棟の下見に行くつもりだ。  一週間前、私はこの家に越して来た。春から晴れて大学生だ。ワクワクする気持ちもないではないが、それより家族とやっと離れられたという喜びの方が大きかった。  私の「サクラ」という名前は両親が春生まれだったことにちなんで付けられたそうだが、冬真っ只中の12月生まれなので自分としては思い入れは微塵も無い。むしろ、嫌いだ。  桜。  美しい花の代表的存在で、春の花といえば大抵の人が思い浮かべるのはこれだろう。実は国花でもあるらしく、日本人に最も愛されている花の一つだ。  そんな花と同じ名を与えられたせいで、私はこれまでの人生何度も辛い思いをする羽目になった。
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