第一章

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 すずめ荘では、手の空いた人間がその日の夕食の準備をすることになっている。なっているはいるが、実際に台所に立つのは玲人君であることがほとんどである。「お前らが使うと汚れるから」というのがその理由だ。  ワンルームマンションによくありがちな流しにコンロが一つだけ、というその小さなキッチンを玲人君はこよなく愛していて、いつもピカピカに磨き上げてはおよそ出番のなさそうなお洒落な調味料をずらりと陳列している。最初の頃こそ他の皆もなんとか役に立とうと努めたが、洗い物をした後のシンクの水滴やコンロに落ちた一滴の油なんかを玲人君が切なそうな目で眺めるたびに罪悪感に苛まれた。結局は黙って食材を差し入れるのがお互いにとって一番よかろうということになり、今は玲人君以外のメンバーはまるで忠実な働きアリのように黙々とこの部屋に食材を運んでは、玲人君が調理したそれらをありがたく頂戴する日々である。 「豚汁って気分ちゃうわ。なんか辛いもん食いたい」  ほざいた剣崎に、玲人君が冷蔵庫から取り出したチューブのわさびを投げつけた。なんやねん、とぼやきながら剣崎がおもむろにチューブのふたを開けて、本当にわさびをなめようとしたので、美都が「うええ」と大袈裟に顔を顰めた。 「まあしかしな」  周りの冷ややかな目線をものともせずに剣崎が続ける。 「お前ら、それ失敗やで」  は、何が?と私は目で問い返す。最近、この部屋の中では言葉を発さずとも表情だけでかなりの意志の疎通が出来るようになってしまった。良くない傾向である。 「そもそもな、お前ら心ン中ではミスコンなんかくそくらえって思ってるやろうが」  剣崎が断じる。 「中身ぺらっぺらの虚栄心の塊みたいな女どもが下心丸出しのキモイ男共からの票を競って承認欲求満たすためだけに醜態を繰り広げるあほくさいイベントやって思ってるやろ、ほら言うてみい」  美都が目をむく。 「思ってないよ!なにその悪意のある言い方、ひどいやん」  そう返しはしたものの、なんとなく心もとなさそうに目を泳がせる。 「そ、それに企画から関われるんやったら薄っぺらい内容じゃなくてもっと候補者の中身に焦点を当てた見ごたえのある内容とかにしていけるかもしれないし」
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