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おおお、と客席で歓声が上がる。みんな完全に湊さんに心を持って行かれている。やばい、と思う暇もなく勝手に体が動いた。ステージの上に走りでる。司会者が驚いて、阻止しようとこちらに一歩踏み出すのが見えた。同時に向こうの舞台袖から美都とたけやんも走り出てくる。美都が手近にあったマイクを拾い上げてスイッチを入れた。
「あの、みなさん、聞いて下さい!」
喋り続けようとする美都の腕を司会者が掴む。
「なんだよこの不細工は!あんたらなんなんだよ!」
公衆の面前で不細工、と呼ばれて美都の身体が強張るのが分かった。
「この…」
ふざけんな、と怒鳴ろうとしたわたしの横を、玲人君がすごい勢いで走り抜けたと思うと、あっという間に彼は司会者に向かって華麗な飛び蹴りを食らわした。きゃあ、と周りから悲鳴が上がる。
「お前、俺の…」
聞いたこともないような怒号が玲人君の口から発されるのを聞いて、わたしはたまげてしまった。玲人君は振り向いて、何かとても壊れやすいものを手にするかのように美都の腕を取った。「大丈夫か?」
それを目にして、きゅるきゅるきゅる、とこれまでの二年間の思い出が頭の中で逆再生されていく。
— 落ち着いた仕草でお茶を入れる玲人君の横顔。
— 皆が毎日入り浸っても嫌な顔をしなかった玲人君(厳密には、いやな顔はしたけど追い出さなかった玲人君)。
— 美都のためにココア用のマシュマロを常備している玲人君。
え、まさかそういうこと?
「俺の、何!?玲人君、ねえ、今なんて言おうと…え、まさか、そういうこと!?」
わたしは我を忘れて絶叫した。俺の好きな人っていおうとしなかった!?しかし、その叫びは頭の上から降ってきた大音量に瞬く間にかき消されてしまう。
「こ、今度は何?」
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