第五章

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 何者かになりたいとか、何かを成し遂げたいとか。足掻いていたけれど、実は一番大切な何かはいつも近くにあって、それに気づかずにわたしたちは右へ左へと大騒ぎしているだけなのだろうか。得られぬものを追い求めているつもりで、でも実はそんなものは幻で。振り返ってみれば幻を追い求めてもがく、その過程こそがわたしたちをわたしたちたらしめているのかもしれない。 「まあなんだかんだ言うて、目的の半分くらいは達成したんちゃうか」  黙り込んだわたしの背中を、おつかれ、とたけやんが優しく叩いた。  王将で餃子食おうぜ、と剣崎が立ち上がる。お前、奢れよ、とたけやんが続く。蒼依、行こう、と美都も立ち上がった。玲人君がかちゃりと鍵を閉める音を背中に聞きながら、ぺったぺったとサンダルを鳴らして歩く剣崎に並ぶ。 「剣崎と友達になった時点でわたしの大学生活は詰んでいたのかもしれない」  ぼやくわたしの肩に剣崎が腕を回して「まあまあまあ」と楽しそうに笑う。 「言うたやろ、人生なんか壮大な暇つぶしやって。そん中でも大学時代なんかな、無駄なことしてなんぼやって。そういう無駄なことをな、二十年後三十年後に思い出して、ああ、あの頃よかったなあって思うのが正しい人生の生き方やろ」  さっき考えたようなことをさらりと言葉にされてわたしは憮然とする。認めたくないけれど、いつだってこいつはわたしの一歩前を行っているのだ。 「いつかきっと」  言いかけたけれど、その後に続く言葉が自分でも思いつかなかったので、そのまま黙って歩いた。  いつかそのうち、この気持ちを表す丁度いい言葉が見つかるといいな、と思いながら。
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