絡まる恋

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 夕食を終えた颯太がシャワーを浴びて出てくると、父がダイニングでコロッケを乗せたカレーを食べていた。 「お帰り」  冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出し、それをグラスに注いで颯太は父の正面に座った。晴香の姿はなく、母親はリビングのソファでなにやらスマホを操作している。 「はい、ただいま」  痩せ型で穏やかそうな容姿の父が、見た目の印象どおりのおっとりとした声で答える。それからカレーを一口口に運び、もぐもぐと静かに口を動かした。 「……あのさ、父さん」 「うん?」  改まって切り出すと、父がスプーンから手を離した。口の中のものを飲み込んで、麦茶を一口飲み、姿勢を正して颯太に向き合ってくれる。 「志望校のことなんやけど……」 「うん」 「第一志望を京都に変えようと思うねん」  そう父に告げて、颯太は首にかけたままだったタオルで襟足を拭いた。 「そうか」  と、母と同じく一瞬だけ考える素振りを見せた後で、 「頑張りなさい」  と穏やかに頷きながら、父が短く言った。  あっさりとしたやりとりに、颯太の方が拍子抜けしてしまう。 「そんだけ?」 「そんだけ……とは?」 「理由とか聞かんの?」 「颯太が考えて決めたんだろう? まだ悩んでいるというなら相談に乗るが……」  瀬戸内地方の出身で大学から関西に来た筈の母はわりと典型的な関西弁を喋る一方で、大阪生まれ大阪育ちのはずの父は、イントネーションこそ西のものだが、何故か標準語ベースで喋る。  不思議な夫婦だ、と、颯太は改めて思った。 「相談が必要かい?」 「……や、もう悩んではないねん」 「颯太のことだからそうだろうと思った」  性格を理解されているのが、嬉しいと同時に面映ゆくもあった。颯太はわざと乱暴にタオルで髪の毛を拭いて席を立つ。 「ありがと、父さん。……母さんも」  そう声をかけると、父親は穏やかに笑いながら頷き、母親はスマホから顔を上げて、颯太に向けてヒラヒラと手を振った。その様子に、颯太は小さく「ふ」と笑ってしまう。 「あ、晴香にお風呂空いたよって言うといて」  部屋に戻りかけた颯太の背中に、そう母の声がかかった。
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