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ベータであることは、消去法で決まる。
思春期に発情期が来ればオメガ、オメガのフェロモンに反応すればアルファ。そうやって第二性は確定する。残りがベータだ。思春期を過ぎてもそのどちらの特徴も発現しなければベータだということになる。
アルファは全人口の1パーセント程度だと言われていて、オメガはさらに少なく、0.1パーセントもいないと言われている。
学校の性教育でしか知らなかったオメガの発情期を颯太が実際に目にしたのは中学一年の夏だった。暑くて、セミが鳴いていた。暑さをしのぎに、豊と二人で同じマンションの年下の幼馴染たちを連れて市民プールへ行った帰りだった。
マンションのエントランスで、幼馴染の湊と巧に行きあった。二人は当時、高校二年生だった。パッと人目をひく華やかな容姿と気の強さをそのまま映し出す瞳の湊は、具合が悪いようだった。いつも飄々とマイペースな巧に肩を支えられてなんとか立っているという風情だった。
「……なんか、甘ったるい匂いしぃひん?」
二人まで数メートルというところで、颯太の隣を歩いていた豊がそう言って足を止めた。つられて颯太も立ち止まった。匂いは分からなかった。プールの残り香がかすかに漂っていただけだった。
それが、豊がアルファだと確定した瞬間だった。
その日から颯太はさらに強く願うようになった。自分に発情期が訪れるのを。発情期さえ来れば確定するからだ。オメガだと。
豊の番になれる、と。
四つん這いの状態で後ろを振り向いた颯太と目が合うと、豊は辛そうに目を細めた。彫りの深い彫刻のように整った顔が歪む。
なんで豊がそんな辛そうなんやろうと思った。今、痛いのも苦しいのも自分の方の筈だ。目一杯開かれて豊の性器を咥え込まされた後孔が引き攣れるように痛い。
「んん……ふ、ぅ……」
俺がベータやからやろうな、と、諦めて受け入れた筈の事実を噛みしめる。オメガでもない、可愛い女の子でもない、ただの男だ。子供の頃は華奢で可愛いと言われることも多かったが、中学校に入って颯太は身長が伸びた。172センチというなんとも中途半端なところで伸び悩んでいるが、男の中で小柄なわけでもない。
そら抱きたくないやろなぁと思う。思うだけで胸が痛んだ。
それでも豊は抗えないようだった。颯太の腰が豊の両手で掴まれる。指先が薄い皮膚に食い込んで痛い。先端だけが埋め込まれていた性器がさらにめり込んでくる。
「ぅあ……あ……っ」
背中を撓らせ仰け反って颯太は悲鳴をあげた。
「……そうた」
後ろから名前を呼ばれる。傷つき途方に暮れたような声だった。
「ごめん。……ごめん颯太」
謝らんでやと思った。謝らんでええよと言ってやりたかった。それでも、息すら止めてしまうほどの痛みのせいで言葉を発せない。
強引に割り開いて体内を遡ってきていた豊の性器が中途半端な位置で止まった。仰け反っていた颯太は恐る恐る視線を後ろに戻す。豊は中程まで颯太の中に埋めた性器を自分で扱いていた。
「……んんっ」
ほどなく、颯太の奥で豊が射精した。豊の性器が脈打ったのを内壁が感じ取り、内部がどろりと濡れる。初めて味わう感覚だった。気持ちが悪いはずなのに、ぞくりと背中が震える。
一度射精しても豊の性器は萎えなかった。固く膨れたままの豊の性器がずるりと抜けていく。それは抜けきる直前で止まった。そこで小刻みに動かされる。
精液を塗り込められているのだと颯太は察した。奥を広げられる苦しさは変わらないが、引き攣れるような痛みはほとんど消えた。
「ん……んん、ん……っ」
消えた痛みのかわりに快感が揺り起こされる。体の奥の粘膜を擦られ、内臓を他人の性器で揺さぶられる。痛みで萎えていた性器にまた血が集まっていく。
「んぁ……、や……あ……」
ぐちゅぐちゅと小刻みに行ったり来たりを繰り返しながら、少しずつ豊の性器が奥深くまで嵌まり込んでくる。それと同時に、ぞわぞわと、何か怖いものが迫り上がってくる。
「あ……あ、や……ぁ……」
望んだ行為の筈なのに、颯太は怖くて仕方なかった。こんなのは知らない。セックスがこんなに何もかも体の内側から暴き立ててしまうようなものだなんて知らない。とんでもないことを口走りそうだった。例えば好きだとか。
オメガなら。これが発情期のセックスならば。
怖くないのだろうか。ただただ気持ちいいのだろうか。もっと本能に身を任せてしまえるのだろうか。
「あ、あ、あ……んん、ん……っ、ん……っ」
互いの下半身が密着した。根本まで性器を埋め込まれたのだ。くらりと目眩がした。大きく仰け反る。びくん……っ、びくん……っと体が震えた。自分がまたイったのだということを颯太は理解できなかった。頭が真っ白に塗りつぶされる。
「颯太……っ」
耐えかねたように名前を呼んで、豊が腰を突き上げた。激しく何度も打ち付けられる。
「や……ぁ……っ、ややぁ……、も、や……ぁ……」
颯太はシーツに突っ伏した。体が痙攣する。それを止められない。なのに豊は止まってくれない。もう気持ちいいのかどうかも分からなかった。
倒れこんだ颯太の体を追うように豊が背中に覆いかぶさってくる。うなじに荒い呼気がかかる。そこはさっき豊に噛みつかれたところだ。
「や……っ」
逃げる間もなかった。豊が大きく口を開いたのが気配で分かった。アルファという名の獣の顎にうなじを噛まれる。
その状態で豊はさらに腰を使い颯太の体を突き上げてくる。小刻みに何度も。それから一際大きく突き上げて、一番奥で動きを止めた。
体の奥で豊の性器が大きく震えた。
生暖かいものが奥に注ぎ込まれる。あり得ない場所がじわじわと濡れていく。
「んん……ぁ……」
朦朧とした意識の底で、颯太は思う。
俺がオメガやったら、と。
これで自分たちは番になっていたのに、と。
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