図書館

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 (ページ)を繰る(しろ)い指が目を()いた。  休日、昼下がりの図書館。(かび)臭い揃いの背表紙を向けた全集が立ち並ぶ書架は、薄暗さも相まって閲覧する者も少ない一角。何故その時私は其処(そこ)へ居たのか、今となっては思い出せもしないけれど。  男性でも、こんな手の持ち主がいるのだ。  書架の蔭から不躾承知で視線を注ぐ。陽に晒したことがあるのかと訝る程の、蝋長けた滑らかな肌理(はだ)に、磨き込まれたドロップのような桜色の爪。  溜め息一つついて顔を上げた仕草に、慌てて視線を逸らし書架の陰に身を潜めた。(えび)茶色の古典全集に視線を呉れる。音もなく気配だけが動くのを背中に感じた。さながらいけないモノを見つけてしまった悪戯っ子。早鐘のように打つ心臓を抱え、私はただ小さくなって素知らぬふりを決め込んだ。 「すみません」  ふいに声が降ってきて、びくりと身が震えた。綿に包まれたようにくぐもった声が、僅かに熱を含んでいたように思ったのは、私の勝手な妄想だったか。 「其処の……『浄瑠璃集』……取っていただけますか」
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